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あらゆるお客さまが快適にお買い物できる社会をつくる。60万人の従業員がチャレンジするDE&Iとは
あらゆるお客さまが快適にお買い物できる社会をつくる。60万人の従業員がチャレンジするDE&Iとは
GMS(総合スーパー)やSM(スーパーマーケット)、金融、ヘルス&ウェルネスなど、約300のグループ企業が幅広い事業を展開するイオングループ。私たちの生活に欠かせない商品やサービスを数多く提供し、近年は事業のDXや海外展開にも積極的だ。
イオングループでは、国内外約60万人のイオンピープル(役員と従業員) に対し、LGBTQ+への理解促進や各種制度の整備を行う。店舗での多様なお客さまへの接客においても、DE&Iの考えを反映している。
イオン株式会社 DE&I推進室 室長の江藤 悦子さん(当時)と、DE&I推進室の橋本 実佳さんに、イオングループにおけるDE&Iの考え方や取り組み、Tokyo Prideへ参加した経緯、今後の展望について聞いた。
DE&I推進室 室長(当時) 江藤 悦子さん(写真・右)
DE&I推進室 橋本 実佳さん(写真・中)
DE&I推進室 小原 悦子さん(写真・左)
聞き手・文/御代 貴子
写真/清原 明音
従業員とその家族、お客さま、会社のすべてが満足するDE&Iを追求
――イオングループでは、どのような考えのもとでDE&I推進を行っていますか。
江藤悦子さん(以下、江藤) イオンが定める「人権基本方針」では、性別や人種、心身の障がい・性的指向や性自認などに関係なく、すべての人を尊重することを謳っています。この方針が、あらゆる人事制度やDE&Iの取り組みのベースになっているのです。
橋本実佳さん(以下、橋本) イオングループは生活に密着した事業を展開しているがゆえに、従業員が幸せでなければ、お客さまに幸せを提供できません。そして、従業員や株主がお客さまでもある当社だからこそ、すべての人に寄り添うことを重視しています。
その思いを反映したダイバーシティ推進のビジョンが、“ダイ満足”です。ダイバーシティが生み出す、従業員とその家族、お客さま、会社の満足を“ダイ満足”と名付けました。(ロゴはレインボーVer.)
――DE&I推進において、どのような取り組みを実施してきましたか。
橋本 ジェンダーギャップの解消や障がい者雇用は、長きにわたり続けています。加えて、LGBTQ+の取り組みに着手したのは2017年頃からです。そのきっかけは、2015年に東京都渋谷区と世田谷区で施行された同性パートナーシップ制度でした。
はじめに取り組んだのは、社員研修です。LGBTQ+に関するセミナーをマネジメント層向けに実施しています。基本知識と、お客さまや同僚に接する際の留意点を学び、正しい理解を促す内容です。
現在ではオンラインセミナーや動画もあり、誰もがいつでも学べる環境を整えました。毎年6月のプライド月間には、有識者や当事者から話を伺うセミナーも開催しています。
これらの取り組みにはビジョンである“ダイ満足”という名称を付け、浸透を図っています。セミナーは「“ダイ満足”フォーラム」、ダイバーシティ推進者の会議は「“ダイ満足”サミット」。ベストプラクティスを表彰する場は「“ダイ満足”アワード」と呼んでいます。
――LGBTQ+当事者に対する取り組みには、どのようなものがありますか。
橋本 結婚祝金や社宅制度をはじめ、異性婚で使える福利厚生や制度を同性パートナーにも適用するなど、事業会社ごとに設けています。各社で制度の状況は少しずつ異なりますが、徐々に拡充している段階です。
江藤 店舗では2019年に、女性従業員が着用する制服をスカートからキュロットとロングパンツに変更しました。作業上の利便性アップという観点もありますが、スカートに抵抗感をもつ従業員の声を反映した施策です。カミングアウトをする組織文化が育まれていない状況でしたが、当事者の意思を尊重し、早急に対応しました。現在は、食品エリア以外は制服を廃止にしています。
必要に応じて、LGBTQ+のイオンピープルへ個別対応をすることもあります。その一例が健康診断です。性自認が生物学上の性と異なる従業員は、会社の巡回検診とは別に外部医療機関で受診してもらうなど、一人ひとりに沿った対応をしています。
誰もが快適にお買い物ができる売場づくりのカギは「対話」
――小売業であるイオン様では、お客さま対応におけるLGBTQ+への取り組みはどのようにしていますか。
橋本 多様なお客さまの誰もが快適にお買い物できるよう、一人ひとりに寄り添い、対話することを第一に考えています。
まず、売場づくりにDE&Iの姿勢を反映しています。たとえば子供服などキッズ用品売場には「男児コーナー」「女児コーナー」といったPOPは出していません。春の入学シーズンに掲示していた「父兄の皆さま」といった表現も廃止しています。
そのうえで、お手洗いや試着室のご案内は、お客さまからご要望があれば対話し、できる限りご希望に沿う対応をしています。
オペレーション上必要なことはマニュアルを用意していますが、対話でしか解決できない場面が必ずあると思うのです。お客さまへの対応はあえてマニュアル化しすぎず、対話を大切にするように伝え続けています。
江藤 国内外に60万人いるイオンピープル全員に臨機応変な接客を求めるのは、難易度が高いことです。ただ、お客さまからの質問やご要望へすぐ回答できなかったら、一緒に考えたり他の従業員に確認したりするのが接客の基本です。LGBTQ+のお客さまからご要望をいただいた際も、丁寧に寄り添う姿勢は変わりません。
外部へ発信することで、DE&Iを社内に根付かせたい
――2024年、東京レインボープライド(TRP。現在のTokyo Pride(トウキョウプライド))へ初めてブースを出展いただきました。そのきっかけや思いをお聞かせください。また、ブースではどのようなことを行いましたか。
橋本 当事者がカミングアウトできる組織風土を醸成していきたいと思ったのがきっかけです。組織が非常に大きい当社にとって、すべての従業員にDE&Iのメッセージを届けるのは時間がかかるものです。そこで、社外にも私たちの取り組みを発信することで、社内へ啓発していきたいと考えました。
また、あらゆる人に「働きやすい職場」としてイオンを選んでもらうためには、DE&Iの取り組みをしている企業だという認知を広めることも大切です。その発信の場として、日本最大級の参加者を誇るTRPへの参加を決めました。
ブース出展は、グループから参加企業を募って4社で行いました。企業としてのDE&Iの取り組みを紹介するとともに、来場者から「イオンをどんなお店にしてもらいたいか」というアイデアを募ったり、ユニセックス商品のサンプル配布をしたりしましたね。参加企業の1社であるイオンボディは、レインボーカラーのオイルで香り付けをするアロマソルトを作るワークショップを開き、とても好評でした。
――TRP2024へ参加した感想をお聞かせください。
江藤 「イオンもTRPに参加するんですね」という声をいただいたことが、印象に残っています。新しい取り組みをするのは、何事も反対意見が出るものです。ましてや当社のような大企業は慎重になりがちですが、出展したことを好意的に受け止めてくれたようです。
ブースに立ち寄った来場者の中には、イオンピープルも多くいました。職場の様子や、グループ各社の制度について意見を言ってくれたんです。60万人のイオンピープル全員にDE&Iを根付かせるチャレンジしている私たちにとって、現場の声を直接聞く貴重な機会になりました。このブースでの会話が、出展の目的である社内啓発につながったとも思います。
――2025年6月に行われるTokyo Pride2025 Pride Parade & Festival(プライドパレード&フェスティバル)にも協賛いただきます。どのような思いをもって参加しますか。
橋本 今年は、昨年より多くのイオンピープルで参加したいと思っています。来場者が多いので、私たちのブースに足を止めてもらい、多くの声を集められるよう、ブースづくりも工夫したいです。
特に意見を聞いてみたいのは、性的マイノリティの方のトイレ利用についてです。正解がないからこそ、さまざまな意見をもとに、誰もが安心してトイレを利用できる店舗をつくりたいと考えています。
江藤 LGBTQ+のお客さまがトイレを利用しにくい店舗は、当事者に「自分はこのお店に来てはいけないのか」と感じさせてしまいます。誰もが心地よく来店いただけるよう、店舗のハード面を整え、私たちのお客さまの受け入れ姿勢を示していきたいと思います。
すべての人が快適にお買い物できる店舗づくりに終わりはありませんし、ダイバーシティ推進に反対する理由もどこにもありません。来場者から貴重な声を集めるとともに、イオンピープルへの発信も意識して、今年もTokyo Prideに参加したいと思います。





