PwC Japanグループ×虹色ダイバーシティ
PwC Japan Group×Nijiiro Diversity
共につくりあげていくプロセスそのものが、インクルージョンを体感する場だった
左から畠田真衣さん、小林友佳さん、小河ともさん、山内美和さん
Tokyo Pride 2025 Pride Parade & Festivalでタッグを組み、「企業 × NPO・非営利当事者団体セクター間コラボレーション出展ブース」を出展したPwC Japanグループ(以下、PwC Japan)と認定NPO法人虹色ダイバーシティ。来場者に学びとエンパワーメントを届けた舞台裏には、半年以上にわたる対話の積み重ねがあった。4人のキーパーソンに、今回の取り組みに込めた思いを聞いた。
- 小河ともさん 認定NPO法人虹色ダイバーシティ マネージャー/東京スタッフ
- 山内美和さん PwC Japan合同会社 人事部
- 小林友佳さん PwCビジネスアシュアランス合同会社 リスクアシュアランス部
- 畠田真衣さん PwCコンサルティング合同会社 公共事業部
取材・文/中村茉莉花 撮影/北川滉大
課題や姿勢に共感し合い、コラボ出展を決意
——今回のTokyo Pride 2025 Pride Parade & Festivalでコラボブースを出展された経緯を教えてください。
PwC Japan合同会社 人事部の山内美和さん
山内美和さん(以後、山内) PwC Japanは2018年からTokyo Pride Pride Parade & Festival(旧東京レインボープライド)に協賛しています。昨年、プライドパレードに参加した社員から、「自分たちも代々木公園にブース出展をして社会課題に関して発信したい」との声が上がりました。I&D推進チームで検討を重ねる過程で、2023年に人事部門を対象としたLGBT+研修をお願いした虹色ダイバーシティと、課題や姿勢に相互に共感できる部分が多かったことから「一緒に挑戦しましょうか」と今年のコラボブース出展が決まりました。
虹色ダイバーシティの小河ともさん
――虹色ダイバーシティさんは、PwCと手を組むことにどんな期待がありましたか?
小河ともさん(以下、小河) 虹色ダイバーシティは、大阪を拠点に活動する認定NPO法人で、調査研究や研修、LGBTQセンターの運営等を通じてSOGIによる格差のない社会を目指しています。メンバーが10人ほどの小さな組織ですが、私たちが持っている現場の知見と、PwC Japanがグループとして持つ発信力やリソースを掛け合わせることで、より広い範囲で学びや気づきを届けられるのではないかと考えました。
――小林さんと畠田さんのお二人がチームに入られた経緯を教えてください。
山内 年明けにはコラボ出展が決まり、PwC Japan内のLGBT+アライネットワーク(LGBT+の理解者・支援者で構成された従業員グループ)を中心に企画メンバーを募ることにしました。虹色ダイバーシティの協力のもとランチセッションを開いて呼びかけたところ、小林さんと畠田さんが手を挙げてくれました。
小林友佳さん(以下、小林) 当時、私はちょうどPwCビジネスアシュアランスに転職したばかり。入社1週間も経たないころにランチセッションに参加して、ビビっと来ました。海外生活が長かった私は、性に限らず「違いが当たり前」の世界になってほしいと常々思っていました。最初はPride Paradeへの参加を表明しただけでしたが、誰かに「自分ごと化」してほしいなら、まずは自分がアクションを起こす必要がある、と考え直し、数日後に「やります」と手を挙げました。
畠田真衣さん(以下、畠田) 私は新卒で入社して4か月目くらいのとき、ランチセッションに参加しました。タイトルを見た瞬間、「これは絶対に参加したい!」と。学生時代から当事者の方々と話す機会が多く、これまではSNSで情報をシェアするくらいしかできませんでしたが、「自分で手を動かしてひとつのことをやってみたい」と思い、参加を決めました。
左からPwCビジネスアシュアランス合同会社 小林友佳さん、PwCコンサルティング合同会社 畠田真衣さん
誰も排除しない、インクルーシブな場づくりを
——ブースのアイデアはどのように練っていったのでしょうか。
山内 虹色ダイバーシティとPwC Japanのメンバーで、ほぼ毎週オンラインで打ち合わせを重ねました。
小河 Prideには華やかで楽しい一面がありますが、その根底にある歴史的意義を忘れてはいけないと思いました。そもそもPride Paradeは何のために行うのか。当事者をエンパワーし、差別や偏見をなくすために知ってもらうこと、そしてアライを増やすこと。その原点に立ち返りながらアイデアを練っていきました。
LGBTQ+の歴史を、古代から現代まで9人の人物の生涯から学ぶパネルを展示
——ブースでは、どのような展示をしたのでしょうか。
小河 虹色ダイバーシティが行っている中高生向け教育プログラムをベースに、LGBTQ+の歴史を紹介するパネル展示を提案しました。古代から現代まで9人の人物に関するパネルを見ながら、2択クイズに答えてもらうことでお子さんでも楽しめるように工夫しました。クイズでは、レズビアンの語源に関する問題や、ストーンウォールの蜂起の中心人物などについて出題しました。
小林 こちらからは、伝えたいメッセージを来場者に書いてもらうしかけを提案しました。パネルを見て学ぶだけで終わらせず、アウトプットしてもらうことで、自分の言葉で考えてもらうことができます。最終的にその場で印刷できるインスタントカメラ撮影した写真にメッセージを書いて、それを虹やFlagのイラストの描かれたメッセージパネルに貼ってもらい、多様性が一つにまとまるイメージを表現しました。
小河 写真で顔を見せ、来場者を可視化することがエンパワーメントにつながる、とてもいいアイデアですよね。同時に来場者の皆さんが安心して参加できることも重視しました。写真やメッセージの利用目的・公開範囲をパネルに明記したうえで、口頭でも説明し、カミングアウトしていない当事者の方でも安心できるように工夫しました。
――ほかに、ブースを作るうえで、工夫された点やこだわったことはありますか?
小河 誰も排除しない、インクルーシブな場づくりでしょうか。パネルを日英併記にし、筆談対応や車椅子での通行も考慮しました。できる限りの工夫はしたつもりですが、おそらく課題もまだまだ残っているはず。今後もずっとブラッシュアップを重ねていく必要がある部分だと感じています。
山内 PwC Japanにも多様な職員が在籍し、当日は車椅子のメンバーも参加するため、インクルーシブな環境づくりは必須でした。イベント前には、当日の運営ボランティアスタッフも交えて、虹色ダイバーシティに注意点などをレクチャーしてもらいました。例えばお客さんに対して、「お兄さん/お姉さん」といった見た目で判断した呼び方は避ける、などのアドバイスを頂き、改めて大切なポイントを確認することができました。
小河 「お兄さん/お姉さん」の代わりに、「○番目にお並びの方」といったインクルーシブな言葉遣いをすることなどをお伝えしました。「当事者をエンパワーメントしよう」「安心な場をつくろう」「そのためにはこういうコミュニケーションを取ろう」という共通認識を皆で持てたので、ブースに一体感が生まれるきっかけになったと思います。
小林 学ぶことが多く、知っていたつもりになっていたけど知らないことが本当にたくさんあるということを気付かされました。より深く学んでいきたいと考え、参加後にすぐLGBTQ+に関するオンラインのセミナーを受講したほどです。
PwCビジネスアシュアランス合同会社の小林友佳さん
知らなかったことを知ることが、眼差しをほんの少し柔らかくしてくれる
——当日のブースの様子はいかがでしたか?
小河 歴史を学ぶという構成は少し硬いだろうかと、ちょっと心配もしていたのですが、皆さん「ぜひやってみたい!」と前のめりで入ってきてくださって、じっくりパネルを読んでくださっていました。「かなり(正解する)自信あるよ」という方からも、終了後には「初めて知った」とコメントをいただき、皆さんに学んでいただくいい機会になったかなと思っています。
畠田 予想よりずっと多くの方がワクワクした顔で「写真を撮りたい!」と言ってくださって、メッセージパネルがあっという間に埋め尽くされました。メッセージに書かれた、「ありのままでいられることが当たり前の社会になるように」という言葉が印象的でした。
小林 「LGBTQ+の人って昔からいたんですね」と驚かれていた来場者の姿が印象的でした。昨今、DEIの重要性が叫ばれているので、何となく「今の時代だけの話」だと思っていた人も少なくないようです。じつは遠い存在ではなくて、歴史の中でも、そして今もずっと一緒に共に生きているのですよね。知らなかったことを知ることが、その人のものの見方や価値観、眼差しをほんの少し柔らかくしてくれると感じました。
PwCコンサルティング合同会社 畠田真衣さん
最終的に目指したいのは、“違いが話題にも上らない社会”
——今回のコラボで得た学びやメッセージを教えてください。
畠田 社内からも120人のメンバーがパレードに参加し、LGBTQ+の課題を自分ごととして捉える人が想像以上に身近にもいるのだと実感しました。これからもお互いにエンパワーし合いながら一歩ずつ共に進んでいきたいと感じています。
小林 最終的に目指したいのは、「違いがあることが話題にも上らない社会」です。ただ、特にLGBTQ+に関しては、まだまだ声を上げるべき段階。歴史をつないできた先人に続き私たちも伝え続ける必要があります。今回のブースのように学び合える場を重ね、「Same Life, Same Rights」が当たり前になる未来を一歩ずつ築いていきたいと思います。
山内 多様な専門性を持つ団体やメンバーが集まり、強みを活かし合った今回の活動は、まさにPwC Japanが目指すインクルージョンを体感する場でした。
PwCの Purpose(存在意義)は「社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する」こと。その実現に向け、ダイバーシティ推進の中でも特に「インクルージョン」を重視し、I&Dとして活動を展開しています。多様性はインクルーシブな環境があってこそ力を発揮できるとの考えから、子育ての制約、外国籍社員の言語や文化の壁など、メンバーが持つバリアを取り除き、心理的安全性を高める環境づくりを推進しています。今回のTokyo Pride 2025で虹色ダイバーシティと協働できたことも、そうした考えと深くつながる大きな意味がありました。これからも、PwC Japanで働く仲間が一人ひとり最大限の力を発揮し、成長できる環境づくりに取り組んでいきたいと考えます。
小河 社会を変えるには、構造そのものを動かす必要があります。そのためには、企業が社内の制度やサービス、広告といった仕組みを少しずつ変えていく積み重ねも大切。当事者の声を吸い上げ、高い専門性を持った私たちNPOと、制度やサービス、発信力を通じて大きなインパクトを社会に与えることができる企業。互いの強みを高め合える今回のコラボは、とても有意義な取り組みだったと感じています。
同時に、イベントは2日間でしたが、当事者は普段の日常の中でも無意識の差別や偏見を感じています。一人ひとりが日々学び続け、SOGIによる格差のない社会を次世代に繋いでいきたいですね。





