株式会社 資生堂
Shiseido Company, Limited
あらゆる人が自分らしく生きられる社会へ。資生堂が世の中の価値基準を変えるために取り組むこと
Tokyo Pride2025において、人権課題をテーマとした「Human Rights Conference」に会場提供としても協賛をした資生堂。自社だけでなく、企業同士の繋がりがあってこそ社会を変えられると見据える姿勢について、DE&I戦略推進部の山本真希さん、岡林薫さんに話を聞いた。
取材・文/山本梨央 撮影/清原明音
あらゆる差別を許さない「資生堂倫理行動基準」
―今回、人権課題をテーマとするHuman Rights Conferenceに協賛しようと考えた背景についてお聞かせください。
山本真希(以下、山本):資生堂グループが定めている行動指針に「資生堂倫理行動基準」というものがあります。この中には、人権と多様性の尊重としてあらゆる差別を許さないということがしっかり明記されています。LGBTQ+に限らず、人種、国籍、性別、障がいを含めて、一切の差別を認めないという姿勢を記したものです。Human Rights Conferenceだけでなく、パレードやブース出展をしていく意図として、あくまでも人権問題として取り組んでいるということをきちんと社員に伝えていく、というのが協賛の一番の目的でもありますね。
岡林薫(以下、岡林):以前からLGBTQ+のコミュニティ支援は特定非営利活動法人 東京レインボープライドにて行っていらっしゃいましたが、賛同企業がどんどん増えてきて、ある程度モメンタムができたこのタイミングでカンファレンスを行うということが素晴らしいと感じました。ここから支援を拡張していくという姿勢に、弊社もまた伴走させていただけたらと思っています。
お客様も社員も、自分らしくいられるために。資生堂が取り組む「多様性」のサポート
―社内でもそうした差別をなくす、という取り組みは行なっているかと思うのですが、具体的にはどのようなことを実施されているのか教えていただけますか。
山本:当然、弊社の社員にも当事者がいるわけですが、私たちが会社として提供できるのは就業規則や福利厚生の部分になってきます。そこで差別なく必要な社員に届けることができ、一人一人が自分らしく、会社で、人生で、そしてプライベートを過ごすことができるかどうか。その支援が大切だと考えています。弊社では2017年に就業規則を改定しました。これは、同性のパートナーを持つ社員に対しても、異性のパートナーと同様の福利厚生をうけることができるように、という改定です。
岡林:社内ではダイバーシティーウィークと言って、社員が誰でも参加しやすい任意参加のイベントをウェビナー形式で開催しています。たとえば、社内の当事者から直接、彼らが感じていることやアライにどうしてもらいたいか、というお話を聞いたり、有識者の先生をお呼びして講義をしていただいたり。
岡林:弊社商品の愛用者には多様なお客様がたくさんいらっしゃるので、ある程度はイメージを持っている社員は多いと思います。それでも、もう一歩踏み込んで当事者が直面していることなどを聞きながら、資生堂という企業の社員として、そして社会の一人の人間として、どうしたら助け合っていけるのかというヒントを得ているようですね。去年は4日間開催して、通算で1000人以上の社員が参加してくれました。
山本:それから、店頭に立つ美容職のスタッフに対しては、制服も自分らしいものをえらべるように、いろいろなパターンを用意しました。決まった制服では、もしかすると違和感を抱く社員もいるかもしれません。大切なのは、社員が自分らしくあり続けるためにサポートすること、そしてお客様へのサービスも多様な皆様にお届けできるように教育していくことだと重視しています。
―社員だけでなく、お客様に対しての取り組みもあると伺いました。
山本:資生堂では、多様なお客様が店頭にいらっしゃいます。ですので、多様な接客応対ができるように教育を徹底して行なっております。商品を伝える立場の社員が、いろいろなバックグラウンドをお持ちの方に対して、適切な応対ができるようにしています。
岡林:最近は、技術面としてどう対応していけるのかという部分の追求も行っています。たとえば、トランスジェンダーの方、ノンバイナリーの方が、自分らしい自己表現を行いたいときにどのような化粧法があるのか。美容技術でできる部分を、当事者の方々にアンケートをとり、お悩みにどう対応していけるのかを探っています、そういうメイク方法を、店頭の美容職スタッフに届けると共に、社会に向けても公開しようかなと準備を進めているところです。
資生堂が考える、世の中の価値基準を変えるための責任
―さまざまな取り組みを実践されて、その効果としてどのような変化を感じていらっしゃいますか。
山本:ここ数年で入社してきた社員たちの中でも、LGBTQ+の当事者の中には「すごく安心できる環境に入ることができた」と言ってくれる人もいます。当事者は、美容職にも、マーケティングにも、営業にも、工場にも、いろんな場所にいるはず。そうした現場で「安心できました」という声が上がっているというのは、社員の中で認知が進んできた結果なのかなと思っています。
―これから、資生堂としてさらに取り組んでいきたい課題などはありますか。
岡林:やりたいこと、やらなければならないことは、まだまだたくさんあります(笑)。でも、こういった社会への発信というのはすごく大切で、社会と社内の両輪を回していくということを重視していこうと思っていて。今年も、Prideは東京だけでなく各地にも協賛しています。国内だけでなく、海外にも多くの社員がいるので、ドイツやニューヨークなど、そういった主要都市でのパレードにも参加して、資生堂がちゃんとコミュニティに寄り添う企業であるという発信はこれからやっていきたいです。
岡林:それから、もうひとつ力を入れている取り組みとして、常に多様性という観点をアップデートしていくために、マーケターに特化したトレーニングをスタートしています。LGBTQ+の方、障がいのある方の当事者との対話を通して、彼らが日々行なっていく商品開発やコマーシャル、社会活動などをしっかり進めていくための底上げに、取り組んでいます。
山本:やはり、ビューティーの会社というのはその時代ごとの美の価値基準を作っていくということでもあります。これは非常に責任重大。何を美しいと捉えるのか、というのは、我々の広告や商品を通して刷り込みされていく恐ろしさもあると思うのです。ですので、資生堂が多様な美を表現して賛美していくということが、世の中の価値観に良い方向に作用していく必要があります。世の中の価値基準を変化させることに寄与するためには私たちの価値の源泉であるマーケターのリテラシーをしっかり上げていく。これは責任として続けていく必要があると考えています。
―最後に、今後の展望をお聞かせください。
岡林:新入社員であろうと、既存の社員であろうと、やはり自分らしくいられるためには、まだ不安な部分など経験値によって違いはあると思います。これから、全員がフルポテンシャルを発揮できるような職場として、もっと強靭なものにしていきたいですね。
山本:私は、ひとつの企業としてできることには限界があるようにも感じていて。LGBTQ+を社会でより正しく理解してインクルージョンしていこう、となったときに、同じ志を持つ企業の皆さんといかに手を繋いでいけるかということに、私たちはさらに積極的に関わっていきたいなと思っています。資生堂の考えや姿勢を伝える声を大きくしていくだけでなく、社会のムーブメントにつなげていき、仲間を増やしていきたいですね。





