ヴィーブヘルスケア株式会社
ViiV Healthcare
HIVへの差別や偏見をなくすために続ける、社外コミュニティとの共創
HIVへの差別や偏見をなくすために続ける、社外コミュニティとの共創
HIV/エイズに100%特化したスペシャリティファーマであるヴィーブヘルスケア株式会社。2016年からTokyo Prideへの協賛を続け、今年で10年目を迎える。
同社のインクルージョン&ダイバーシティ推進の特徴は、NPOやHIVコミュニティなど、社外のさまざまな団体・組織を巻き込んで行っている点だ。
渉外・医療政策・患者支援 マネージャーの笹井 明日香さんに、同社におけるインクルージョン&ダイバーシティの考え方や施策、Tokyo PrideにおけるHIVコミュニティとの共創、今後の展望について聞いた。
(左から)
岡本さん
前野さん
五十嵐さん
渡邉さん
笹井さん
志田さん
聞き手・文/御代 貴子
写真/清原 明音
インクルーシブな環境を全社員でつくるカルチャー
――はじめに、ヴィーブヘルスケアの事業概要と、笹井さんの業務について教えてください。
笹井明日香さん(以下、笹井) 当社は「HIVとともに生きる人を誰ひとり置き去りにしない」というミッションを掲げる、HIV/エイズに100%特化したスペシャリスト・カンパニーです。グローバル製薬企業であるGSK(グラクソ・スミスクライン)グループの1社で、日本法人には50名ほどが在籍しています。その中で私は、渉外、患者支援と広報を担当しています。
――インクルージョン&ダイバーシティに関する方針や制度には、どのようなものがあるのでしょうか。
笹井 わたしたちは、バックグラウンドにかかわらず、異なる視点や経験をもつ人を歓迎する組織です。インクルーシブな環境をみんなでつくるカルチャーがあるからこそ、ビジネスで優れた成果を生み出せると考えています。
制度面では、2020年からパートナーシップ制度が導入されています。同性婚を法律婚と同じように扱い、育児休業、介護休業、慶弔見舞金などが適用されます。GSKグループ横断のLGBTQ+アライのERG(従業員リソースグループ)である「Spectrum JAPAN」が中心になって働きかけ、導入に至りました。
人財育成の観点では、全社員を対象とするハラスメント研修が年1回行われます。インクルーシブなカルチャーを維持するために定期的に確認する意味合いもありますし、法改正などアップデートされた内容があれば研修に反映されています。最近では、避けるべき性表現について新たに学びました。
こうした施策を続けたことにより、職場におけるLGBTQ+への取組みの評価指標「PRIDE指標 2024」において「ゴールド認定」、そしてセクターを超えた協働を推進する企業を評価する「レインボー認定」をGSKとともに獲得できました。
HIV疾患啓発のために不可欠だった、社外コミュニティとのコラボレーション
――ヴィーブヘルスケアは、Tokyo Pride(2024年までは東京レインボープライド)で毎年ブース出展をされています。どのようなメッセージを来場者に伝えていますか。
笹井 一貫して伝え続けていることは、HIVの疾患啓発です。初めてブースを出した2017年は、当時は珍しかったVR(バーチャル・リアリティ)で好きな相手と「バーチャルデート」をしながらHIVについて学び、最後にHIV検査を受けることを楽しく学ぶ体験をしてもらいました。
コロナ禍でオンライン開催となった2021年は、バーチャル空間上にブースを設け、自分のアバターで入場すると近くにいる人と会話ができる仕組みを用意しました。わたしたちと交流があるHIVコミュニティのメンバーと一緒に、バーチャル空間でパレードもしましたね。
その後は、テーマを毎年少しずつ変えていますが、共通しているのは、「遊びの要素を取り入れながら、HIVについて学ぶ」ことです。私たちが皆さんに知ってもらいたいHIV・エイズは、簡単ではないテーマです。今もなお差別や偏見が残り、HIVについて話すこと自体が困難な状況にもなっています。だからこそ、教科書や学会展示のような伝え方をしてしまうと敬遠されかねないと思うのです。
「何か楽しいことがあるかも」と思ってブースに立ち寄っていただき、楽しみながら新しい情報を一つでも持ち帰ってもらいたいと考え、遊びの要素を大切にしています。
――ブース出展は、NPOやHIVコミュニティの皆さんと共同で行っています。その経緯について教えてください。
笹井 現在、HIV陽性者とその周囲の人などを支援する認定NPO法人ぷれいす東京、新宿二丁目のコミュニティセンターを運営する特定非営利活動法人aktaと一緒にブース出展しています。いずれもTokyo Pride協賛前から、社内研修で講演してもらうなど当社と長いお付き合いがあるNPOです。パレードはさらに多くのコミュニティや他企業、HIV陽性者の皆さんと一緒に歩いています。
過去のTokyo Prideで、当社と各NPOは別々にブースを出展していたのですが、「一緒に出展したほうが、より多くの来場者にメッセージを伝えられるのではないか」という思いが双方にあり、みんなで集まって出展しようという話になりました。
ぷれいす東京やaktaとは、ブース出展の準備もスムーズに進みました。HIVの流行終結という目的を共有しながら、当社は疾患啓発・治療薬の提供、NPOは予防啓発やHIV陽性者支援など、それぞれの役割を全うしたいという思いがあるからだと思います。
昨年からはコミュニティの輪がさらに広がり、全国のHIVコミュニティのネットワークであるMSM All Japanと一緒にブースに立ちました。今年もこの仲間たちと一緒に出展予定です。
HIV疾患啓発は、企業だけでもコミュニティだけでも十分にできるものではありません。行政や国も含めて緩やかにつながって動くことで、社会が変わっていくと思います。コミュニティの皆さんは、私たちにとって大切なパートナーです。
――ヴィーブヘルスケアの社員の皆さんは、Tokyo Prideにどのように参加していますか。
笹井 ERGである「Spectrum JAPAN」のメンバーの他、希望者を募ってブースやパレードに参加しています。当社の社長もブーススタッフとして参加したり、会場からのラジオ生放送に出演したりしているんです。
Tokyo Prideへの参加は、ボランティアではなく業務扱いにしているのが当社の特徴です。学会に企業ブースを出展するのも、Tokyo Prideにブースを出すのも、HIVに関する情報提供という目的は同じです。「HIVとともに生きる人を誰ひとり置き去りにしない」ことを実現するための活動なので、公式な会社の行事という位置付けにしています。
当日参加しない社員も、何らかの形で関わってくれています。昨年は業務の合間などに折り紙でレインボーカラーのオブジェをつくり、当日ブースに飾りました。Tokyo Prideは、当社にとって全社員参加型のイベントになっています。
HIVへの差別や偏見がなくなることを目指して
――Tokyo Prideに協賛し続けていることに対し、ステークホルダーの方々からどのような声があがっていますか。
笹井 小規模企業である当社がTokyo Prideをきっかけに認知されることが多いのはもちろん、医療従事者の方々からは「HIVの疾患啓発をずっと続けていますね」という言葉をよくいただきます。
製薬企業の使命として、よい薬を開発し患者さんに届けて健康に貢献するのは当たり前ですが、疾患がある人が生きやすい環境をつくり、HIVへの差別や偏見をなくす取り組みも同じように重要です。
Tokyo Prideは、規模や知名度の観点からも、社会に大きな影響を与える存在です。ここに私たちが継続して参加していることは、HIVコミュニティや顧客に大きなインパクトがあると思っています。
そして、当社の社員も、Tokyo Prideへ自社が参加していることに誇りをもってくれています。社会貢献をしていることを肌で感じ、モチベーション向上につながっているようです。
年1回のイベントではありますが、社内外への波及効果が大きいことを改めて感じているところです。
――最後に、今後の活動への思いをお聞かせください。
笹井 現在は医療の進歩によってHIVに感染しても長く生きられるようになり、過去に差別や偏見があったことを知らない方々も増えています。そのため、「偏見をなくそう」というメッセージを避ける風潮もあります。ただ、差別や偏見が存在する限り、「なくそう」と伝え続けるべきだと思うのです。
LGPTQ+を取り巻く環境は少しずつ良くなり、差別や偏見について語り合える社会になりつつあると思います。社会全体の雰囲気が変わるその日まで、やるべきことを一歩ずつ続けるのが大事だと考えています。





