EY Japan
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今こそDE&Iのスピリットを伝えたい。EY Japanが“個の尊重”を最重視する理由
2013年から東京レインボープライドに協賛しているEY Japan。今年、DE&Iの取り組みを縮小するグローバル企業もあるなか、引き続きその取り組みを貫く姿勢を強く打ち出している。その背景にはどんな想いがあるのだろうか。DE&Iリーダーの梅田惠さんとチーフ・タレント・アンド・ウェルビーイング・オフィサーの永吉正郎さんに話を聞いた。
取材・文/中村茉莉花 撮影/清原明音
スピークアップしやすいカルチャー 経営施策にも「個の尊重」
—EY Japanが、DE&Iに取り組みはじめたのはいつごろからでしょうか。
永吉 正郎さん(以下、永吉) 2008年、DE&Iに対する世界的な関心の高まりを受け、日本ユニットでもDE&Iのチームを作ったのがきっかけです。
同年、女性がより働きやすく、生き生きと活躍できる職場づくりを目指して、WindS(Women’s Interactive Network for Dreams and Success)というERG(従業員リソースグループ)の取り組みも始まりました。2013年には、LGBT+A(Aはアライの意味)のネットワークがスタートし、2014年にそれを母体にUnity(ユニティ)Japanが発足。
2019年には、グローバルスタンダードにのっとった最先端のDE&Iを取り入れる必要があると考え、外部から初めて、梅田さんをDE&Iリーダーとして採用しました。
EY Japanチーフ・タレント・アンド・ウェルビーイング・オフィサーの永吉正郎さん
—梅田さんは入社して、EY Japanにどんな印象を持たれましたか。
梅田惠さん(以下、梅田) 以前、work with Prideという有志団体で一緒に活動していた仲間に、EY JapanのUnityのリーダーがいたんです。EYの話を聞いていて、良い会社だなと感じていました。
実際に入ってみると、メンバーのボランタリーな活動から会社への提言がなされていることに驚きました。例えば、かつて公認会計士は、結婚で姓が変わっても旧姓を使い続けることができなかったのですが、女性メンバーからの要望を受け、EYが公認会計士協会に働きかけたことで、業界全体で女性の旧姓使用が認められるように。また、2018年、EY Japanが現在の東京ミッドタウン日比谷に移転する際には、Unity Japanがビルのオーナーと交渉し、オールジェンダートイレの設置を実現させたんです。
私は人事のDE&I専門職の立場から、このようなボトムアップのカルチャーを持続可能にするための人事施策やプログラム、研修の開発や整備をリードしています。
永吉 EYには、スピークアップしやすいカルチャーや、個性を大切にする風土がありますよね。経営層も多様で、EY Japanのチェアパーソン兼CEOを務める貴田守亮はセクシャル・マイノリティであることを公表していますし、世界のビッグ4会計事務所で初めて女性CEO(ジャネット・トランカーリー氏)が誕生したのもEYです。
経営施策にも「個性の尊重」が明文化されています。EVP(エンプロイーバリュープロポジション/メンバーへの提供価値)には、「あなたの個性を大切にして、未来を形づくるように、EYはあなたをサポートします」と、いの一番に“個性の尊重”と“インクルーシブネス”を打ち出しています。
多様な個性の摩擦は、イノベーションの源泉になる
EY Japan DE&Iリーダーの梅田惠さん
—DE&I施策を進めるうえで気をつけていることはありますか?
梅田 ダイバーシティは、個の“違い”を際立たせること。ですが、個々がバラバラなままではダイバーシティの価値は発揮されません。違いを受け止め、結びつけるインクルーシブな環境がないと、「私は受け入れられていない」と孤独を感じる人が増えてしまいます。そのため、ダイバーシティとインクルージョンは必ずセットで取り組む必要があります。
また、インクルーシブな環境をつくるためには、人と人をつなぐ“リーダー”を増やしていくことが大切です。ここでいうリーダーとは、管理職のことではなく、リーダーシップを持って周囲をつなげる人のこと。いじめや差別があれば介入し、アウトサイダーになりがちな人を励まして輪に引き込む。多様な個性が行き交い、交差点のような環境では摩擦も生まれますが、それがイノベーションの源泉になります。EYは今、そうしたリーダーとしての行動変容が起こる環境づくり、カルチャーの醸成に力を入れています。
永吉 我々は年間1800名ほど人材を採用しているため、毎月100名以上の社員が入社してきます。それぞれ異なるバックグラウンドを持つメンバーたちのベクトルを合わせるためには、EYメンバーとしての“行動基準”をハッキリと示すことが不可欠です。「互いを信頼して多様な視点をぶつかり合わせ、新しいアイデア、ソリューションを作り出しましょう」というメッセージを、新人研修や全社会議などの場で幾度となく伝え、カルチャーを浸透させようとしています。
行動してこそ“アライ”
Unityのメンバーと
—個性を生かし、イノベーションを起こすために、カルチャーが重要なんですね。Unity Japanはどのような活動をしているのですか。
梅田 メンバーは200人程度で、そのうちコアメンバーは20〜30人です。毎月定例会を開き、当事者がライフヒストリーを語る場を設けたり、Tokyo Pride (2024年までは東京レインボープライドの名称にて開催)ではUnity主導で社内からパレード参加者を募ったりしています。
また、LGBTQ+という言葉は広まったものの、当事者がどんな困難を感じているか、チーム内でカミングアウトしたメンバーをどう受け止めるかなど、まだまだわからないことが多いという人も少なくありません。そこで、アライとしての「行動」の大切さを伝える「アライ研修」も今年5月から予定しています。
ときどき、「アライって名乗らなきゃいけないんですか?」と聞かれることもあるのですが、残念ながら、思っているだけでは“フレンドリー”。行動してこそ“アライ”です。企業としてアライ活動を推進し、身近なところから変えていくことが大切だと思っています。
—EY Japanでは同性パートナーにも配偶者と同等の権利を認めているとか。
梅田 育児・介護・看護の休暇/休業などさまざまな社内規定に関し、同性パートナーを含む事実婚による家族も対象としています。また、日本では同性婚がまだ認められていない現状を踏まえ、同性カップルにはちょっとしたお祝いの気持ちを込めて「EYダイバース・パートナーシップ・プログラム登録書」を発行し、私のサインを入れてお渡ししています。サプライズで社内便で贈るのですが、毎回とても喜ばれているんですよ。
同性パートナーにサプライズで贈る「EYダイバース・パートナーシップ・プログラム登録書」
同性カップルだけでなく、名字を変えたくないからと事実婚を選ぶカップルや、国籍が異なる故に事実婚を選択したカップルなど、さまざまなケースの社員にも、この登録書でお祝いの気持ちを伝えています。
じつは、人事制度を作る際、「これは女性向け」「これはLGBTQ+向け」というように対象者を絞ってしまうと、当事者が使いにくく感じてしまうことがあります。課題を掘り下げていけば、ダイバーシティの根っこは同じ。ひとつの制度で、女性も障害のある人もLGBTQ+の人も、誰もがフラットに使える設計にしたほうが、さまざまな事情を抱える人が利用しやすくなります。
今こそDE&Iのスピリットを打ち出すチャンス
—アメリカでは、トランプ政権の影響でDE&Iに対して逆風が吹いています。EY JapanのDE&I推進に影響はありませんか。
永吉 このようなときこそ、会社の精神が問われるタイミングだと思っています。幸いにもEYは本国からのストップはありません。今こそDE&Iのスピリットを打ち出すチャンスだと捉えています。
梅田 永吉さんに、「何を及び腰になっているの?」と背中を押され(笑)、今年はDE&I関連のイベントの機会をあえて増やしています。-Tokyo Prideの協賛-も、今年からゴールドスポンサーにアップグレードしたんですよ!
永吉 一人ひとりの個性を尊重し、働きやすい環境をつくる。そこは我々が絶対に譲歩できない、重視しているボトムラインなんです。セクシャリティ含めた自分の個性がきちんと受け入れられてるんだな、という感覚は、ビロンギング(帰属意識)にもつながります。こういったメッセージやアプローチを根気強く続けてきたせいか、この5年でEY Japanのコンサルティングビジネスの離職率は半分ほどに減りました。成長率も右肩上がりで、うれしいことに、EY Japanの多様性やインクルージョンのメッセージに惹かれて入社を目指す学生や中途入社者も年々増えています。
—頼もしいですね。今後の展望は?
永吉 3年以内に、社員の75パーセントが心理的安全な状態、ありのままで働ける状態を目指します。そこまで実現できたら、かなり働きやすいファームになるんじゃないかと感じています。
一人ひとりが自分らしさを大切にし、互いを尊重し合う社会を実現するためには、すべての人が行動し続けることが重要です。Tokyo Prideでもそんなメッセージを伝えていきたいですね。





