EY Japan
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制度の先にある「一人ひとりの意識と行動」が社会を変える。EY Japanが描くインクルージョンの現在地

日本において、他社に先駆けてDE&Iの取り組みを続けてきたEY Japan。人事制度などの環境が整った今、次に見据えるのは一人ひとりの感情に寄り添い、具体的な「行動(アクト)」へとつなげていくフェーズです。
今回は、同社で長年DE&Iをリードしている梅田 惠さん、パラアスリートとしての視座を組織開発に活かす富田 宇宙さん、そして若手世代のリーダーとして活動する古波津 大地さんの3名にインタビュー。スローガン刷新に込めた想いや近年の取り組み、今後の展望について伺いました。
取材・文/御代 貴子 撮影/清原 明音
「Everyone(一人ひとり)」という言葉に想いを込めた新スローガン
――EYは昨年、スローガンを「Inclusiveness for Everyone」に刷新されました。この背景には、どのような想いがあるのでしょうか。
梅田 惠さん(以下梅田):新スローガンには、一人ひとりを尊重するインクルーシブネスを実現していこう、という想いが込められています。
EYでは以前からインクルーシブネスを重視し、そのための行動を起こすことを社員に呼びかけてきました。DE&Iの取り組みは、制度を作っただけでは不十分です。社内の制度は使いやすいか、あるいは声を上げられない人に寄り添えているかも大切だと考え、一人ひとりが安心して仕事に向き合える組織であることを追求し続けてきました。

梅田:私はよくインクルージョンの説明をする際に、「ミックスジュース」と「ミックスサラダ」の例えを出します。DE&Iの初期の取り組みは、いわばミックスジュースのようなものでした。多様な素材を集めても、同じやり方でひとつに攪拌(かくはん)してしまうと、できあがったものから個々の素材は見えず、数多く入っている食材の影響を強く受けます。DE&Iに置き換えると、声の大きい層やマジョリティに馴染めない人に同化を強いるやり方であったことは否めません。
そうではなく、私たちが目指すのはミックスサラダの世界です。それぞれの素材が特徴を残したまま、その個性を活かすためのドレッシングを工夫することで、イノベーティブな一皿が生まれる。組織において、ドレッシングとは環境整備です。多様な人を受け入れる環境で、「All(みんな)」ではなく目の前の「Everyone(一人ひとり)」がインクルーシブネスを尊重し、お互いのために何ができるかを考えていこうというのが私たちのスローガンです。
心理的安全性はリーダーの「ごきげん」から。パラアスリートと挑む組織開発
――新たな取り組みとして、「ごきげん学」を管理職研修に導入されました。インクルーシブな組織づくりに管理職の「ごきげん」(心の状態)がなぜ必要だと考えたのでしょうか。
富田 宇宙さん(以下富田):「ごきげん学」とは、外部環境に左右されず自分の心をよい状態(フロー状態)に整え、最大限のパフォーマンスを発揮できるようにするためのメンタルトレーニングです。プロ野球の大谷翔平選手や、ミラノ・コルティナオリンピックのフィギュアスケート女子シングルで金メダルを獲得したアリサ・リウ選手が取り入れていることで話題になった応用スポーツ心理学をベースに、誰もが取り組めるよう最適化されています。
私自身も当初は、アスリートとしてこのスキルを磨いてきました。ですがパフォーマンスアップだけでなく、視覚障害によってできないことが増えていく日々を生きることや、差別などの社会的な障壁に対峙するにあたっても有効と感じたのです。

富田:そしてこのメソッドに対する知見が深まるにつれ、ビジネスリーダーにも役に立つと気が付きました。自分の機嫌を保ち、それによって周囲の人とインクルーシブな関係性を築いてステップアップしていく能力は、各々の専門性を掛け合わせることで価値を創出するEYのメンバーにこそ必要ではないかと思ったのです。
自分の機嫌をよい状態に保つことは、DE&Iにも欠かせません。きっかけは、スペインでの経験でした。電車に乗る際、白い杖を使っている私の周囲には自然と現地の人が集まってきて「僕が同じ駅で降りるから一緒に行くよ」などと声をかけてくれるのです。また、車椅子の友人が段差で困っている際も、通りかかった人がさっとサポートをして挨拶とともに去っていく。このような光景が日常的にありました。
最初は障害に関する知識が豊富だからこうした行動ができるのかと思ったのですが、聞いてみるとそうではなくて。単にオープンマインドで他人に話しかけるハードルが低いから自然に声をかけることができる、ということでした。この心の余裕こそが、機嫌からくるものなんですよね。
知識や制度を学ぶことも大切ですが、結局は自分の機嫌が悪く、、自分と相手の違いを受け入れることは難しい。インクルーシブな状態を実現していくためには、マジョリティがマイノリティの人々にサポーティブになるだけでなく、マイノリティの人も自分自身を受け入れ、周囲の助けをもらいながら活躍していこうとする、その循環が必要なのです。そのエッセンシャルな取り組みとして、「ごきげん学」を学ぶ管理職研修を行いました。
――管理職研修では、どのようなことを行ったのでしょうか。また、参加した皆さまにどのような変化が見られましたか。
富田:半日のセッションを月1回ずつ、半年間にわたって実施しました。自分の感情を自覚することからスタートし、参加者同士で対話したり、自分の内面を見つめたりしながら、思考の習慣を変えていくプロセスをたどります。
参加者からはポジティブな感想が多くあがっています。ある管理職の方は「イライラしている自分を自覚できるようになり、部下や家族に優しくなれた」という感想をくれました。また、仕事の中に楽しみを見つけて、それにワクワクしながら働けるようになったという声もありました。
梅田:インクルージョンを感じられる条件として、心理的安全性とビロンギング(自分らしくいられる居場所があると思える状態)があります。自分がご機嫌でいることで、思ったことを発言したり行動したりしやすくなり、お互いを受け入れやすくなりますね。この取り組みを通して、「ごきげん学」とインクルージョンは密接に関わっていると感じました。
富田:上司が常にご機嫌でいること自体が、チームにとっての心理的安全性につながりますよね。部下は上司の顔色を伺う必要がなくなり、ネガティブな報告や斬新なアイデアも出しやすくなる。人事制度だけでなく、人の心にもアプローチすることで、目に見えない空気を変えていくのが今回の取り組みです。
マジョリティに焦点を当てたDE&Iの取り組みも行い、離職率が低下
――11月19日の国際男性デーに合わせて古波津さんが企画されたセミナー「男性らしさの変容と葛藤 マッチョイズムのしがらみを超える」についても伺います。この取り組みの背景には、どのような想いがあったのでしょうか?
古波津 大地さん(以下古波津):本質的なDE&Iを実現するには、男性の意識を変えていくことも必要だと考え、このセミナーを企画しました。
EYでは年に数回エンゲージメントサーベイを実施しており、これまではその結果を、ジェンダーや文化の違いによるギャップ分析や施策検討に活用してきました。しかし詳しく分析すると、同じ男性の中でも、部門や役職、年代によって、「ありのままでいられる」と感じられるかといった、心理的安全性に関するスコアに差があることが分かってきました。さらに現場のヒアリングからも、その背景の一つには、伝統的な「強く、決断力があり、競争に勝つ」という男性像――いわゆるマッチョイズムに適合することを求められ、そのプレッシャーに苦しんでいる男性の存在があるのではないかと考えるようになりました。
働き方や個性が多様化する一方、「昇進するにはマッチョイズムが必要だ」という無意識の思い込みから解放されない限り、個々の能力が最大限発揮できるインクルーシブネスは実現できない。その問題意識から、国際男性デーに合わせて、一人ひとりが「自分らしさ」を考える本セミナーを企画したのです。

――セミナー内容や、実施後の効果についても教えてください。
古波津:社内で希望者を募り、マッチョイズムの研究者による講演とワークショップを実施しました。興味深かったのは、参加者の半数が女性だったことです。役職も幅広く、管理職とスタッフ層の比率は半々でした。事前アンケートでもマッチョイズムへの関心の高さがうかがえ、役職者の男性に限らず、職種や性別を問わず多様な人がマッチョイズムに囚われて悩んでいるのだと感じましたね。
参加者からは「自身も悩んでいたので、本当の自分らしさの在り方のヒントになった」、「チームメンバーに対して、無意識にマッチョイズムを押し付けていないかを考えるきっかけになった」といった感想が寄せられています。
DE&Iは、マイノリティの人にだけ働きかけるものではありません。マジョリティも「自分も多様性の一人である」と感じる機会が増えることで、組織の土壌は変わっていくのではないでしょうか。男女という二元論を超えて、一人ひとりが自分らしくあることに向き合える環境が、今のEYには着実に育まれていると思います。

梅田:EYではこのセミナーの他にも、マジョリティに焦点を当てた取り組みを数年にわたって行っています。その効果として、ここ数年は離職率が低下するとともに、採用が加速し、組織を拡大できています。採用が困難な若手層の入社も多く、現在の平均年齢は34歳です。
また、2025年には、日経ウーマン「女性が活躍する会社BEST100」において、回答企業467社の中で総合ランキング第1位に選出されました。先日発表された2026年版でも総合第3位と、4年連続でトップ10にランクインしています。こうして優秀な人材を惹きつけ、社会からの評価もいただいているのは、DE&Iの効果も大きいと考えています。
一人ひとりが自分らしく生きるための選択肢を増やしていきたい
――今後の展望をお聞かせください。
梅田:インクルーシブなリーダーをさらに増やすことを目標に掲げています。インクルーシブなリーダーシップは、役職者になれば備わるものではなく、誰もが意識して持つべきものだと考えています。
私たちは、インクルージョンをよくサッカーに例えます。誰もが試合に参加し、フィールドに立った一人ひとりがお互いの特性を理解して、お互いをサポートし、自律的に判断してゴールを目指す。また善きライバルと出会い、ともに刺激し合って成長していく。そんなインクルーシブカルチャーを体現するチームを増やしていきたいですね。
目指す姿を実現するにあたり、ウェルビーイングを軸にした施策を展開する予定です。その一例として、ジェンダー対応を行うクリニックや、車椅子で診察が受けられる病院のリストを健康保険組合と協力して作成しました。また、ライフワーク関連でも、男性の参加を促進するために男性講師による妊活や介護のセミナーを開催しています。女性に対しては身体軸でキャリアを考えていくセミナーを開催するなど、従業員へ提供する選択肢を増やすことで、自らが望むキャリアや生活を実現できる環境をつくっていきたいと考えています。

――Tokyo Pride 2026のテーマは「多様性と平等がひらく未来」です。長きにわたりDE&Iを推進してきたご経験をふまえ、これからの社会の在り方について想いをお聞かせください。
富田:私は、この世界にいる80億人には「80億通りの多様性」があると思っています。障がい者やLGBTQ+当事者といった、カテゴリーで分けるのではなく、誰もが「自分以外は全員違う人間だ」という前提に立って、お互いのユニークさを尊重する。自分も周りの人も心地よく生きていくために、こうしたDE&Iの在り方を多くの人に広めていきたいと思います。
古波津:私も同感です。DE&Iはマイノリティだけのものではなく、一人ひとりが「自分のこと」として考えていくことが大切だと思っています。今年は同性婚をめぐる議論など、社会が大きく動く節目の年でもありますよね。自分自身のために、そして周りの大切な人のために声を上げ、行動する人が増えることで、社会が少しずつでもよりインクルーシブな方向に進んでいくことを期待しています。
梅田:歴史を振り返ると、いつの時代も多様性の課題があり、それを乗り越えてきた人たちがいます。これからの私の役割は、DE&Iに悩む若い人たちを応援すること。そのために、私自身もDE&Iに対する考えをアップデートし続けていきたいですね。こうして次世代のみんなが生き生きと働き、殻を破っていける社会になっていくことを望んでいます。

































































































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